がん患者の父

娘が膵臓がんになった。まさかまさか、痛恨の極みです。

セカンドオピニオン

娘婿とセカンドオピニオンを聴くためOがんセンターで待ち合わせた。医療所見料を払い、娘の署名入りの面談同意書を提出、私たち二人は運転免許証を見せて身分を確認される。


セカンドオピニオンの申込書には、患者サイドからの相談内容なり要望なりを、あらかじめ記入する欄があります。


そこで、緊急入院から開腹手術、そして最初の抗がん剤投与が始まった経過を時系列で書いたあと、二つのポイントを要望しておいた。


一、重粒子線治療あるいは陽子線治療について
一、よりよい治療法とその実施医療施設等の紹介について


医師との面談は、この申し込み書の趣旨と、入院先の病院から提供された医療情報署とCDをもとに進められました。パソコン画面にMRIで撮った患部の画像を表示して見せてくれる。いくつかの画像が次々と映し出される。


医師が指さす画像には素人目にも陰影や点綴があることがわかります。医師はごくごく事務的な口調で、腹膜播種、十二指腸浸潤が明らかにに見られます。転移が進行していることを指摘します。
「リンパ節へはどうですか」
「あります」


暗然とした思い。崖っぷちから突き落とされるようなショックを改めて受ける。婿は黙っています。婿は開腹手術後に主治医から状況を聴いているので、それと重ねているのだろう。


医師の口から出てきた言葉は。一つ一つ胸に刺さります。


当センターでは、重粒子線や陽子線治療は行っていない。その治療法を含めて放射線治療というのは、主に患部が限局されたところを、いわばピンポイントで叩くものなので、こうした転移が広がっているケースには向いていない。


抗がん剤治療は、日々進歩していて、明日にも、いい薬剤が開発されるかもしれない。いまも薬剤はたくさんありますが、次の4種類がよくつかわれています。


一、TS-1(ティ―エス・ワン)    進行性、再発がん。効果高し
二、アブラキサン          抗腫瘍作用、投与時間短い
三、ゲムシタビン(ジェムザール)  副作用軽く、効果高し
四、FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)


娘に投与されているの抗がん剤は、フォルフィリノックスと知る。術後、とくに進行度が高い患者に使われているもの。三種類の薬剤を順番に46-48時間かけて静脈注射するやり方。フランスで開発されたという。


後者の二つの抗がん剤治療は5年前にはまだなかった治療法であり、副作用が軽く、効能が高いことから注目されているそうだ。


もっとも、医師は娘がまだ抗がん剤治療に入っていなければ、三と二を併用した治験を行うことも可能だったと打ち明けた。立証データの正確性を担保できないので、やむ得ないことだという。


また数多くある、いわゆる民間療法についても専門医の立場から推奨できるものはない。開業医や薬剤関係者たちが、おうおうにして奇跡的な効果があったなど宣伝し、わらにもすがる思いの患者から高額の治療費をとっている話が伝わってきます。


たしかに、なかには「よく効いた」例もあるのでしょうが、それが100例の何例か、どんな立証データがあるのか、ほとんど証明されていないので、科学的根拠がない。がんセンターで治験してみるような民間療法はありません。


ただ、一つ上げれば、温熱療法は、民間療法の域を超えて、それなりの理にかなっており、公的医療機関でも実施しているところはある。


最後に私が尋ねました。
「5年生存率という指標がありますが、この病変では、どうでしょうか」
「一年ですね」
「余命一年?」


事前にいろいろの知識を仕入れて、ああでもないこうでもないと堂々巡りに心配をしていました。こうもハッキリと、ずばり指摘されると、息をのむ。私たちの深い落胆の表情をみてか、医師は補足するように話した。


「胃や大腸などのがんでは、治療効果にミラクルが起きることがあります。でも膵臓がんは、残念ながら、ミラクルは起きない。まず一年生きる。一年生きることに全力を挙げる。幸い一年生きれたら、次の一年をめざす。そういう心構えが大切です」


もう一つ尋ねました。
「今入院している病院の措置は??」
医師は迷うことなく「ベストだと思います」と言い切りました。


入院先へ報告する書類ができるまで待合室の椅子に腰をおろす。肩から全身にかけて疲労感。婿と顔を見合わせても言葉がない。少しでも希望が持てるような、いい話は聞くことができなかった。


「あの医師は一年といったけど、手術した医師は、7カ月と言いましたよ」
口の重い婿が、秘めていたことを打ち明けてくれた。余命のことは、いちばん気にかかることながら、言葉に出して尋ねにくい。


私も術後に、主治医からなにかを聞いたのではないかと案じていたが、たずねることをためらっていました。


複数の医師が見立てて「7か月から一年」。あまりの重大な宣告に打ちのめされます。娘や一人息子にこの宣告を伝えることは、とうていできない。


代われるものなら代わってやりたい。