がん患者の父

娘が膵臓がんになった。まさかまさか、痛恨の極みです。

CT検査

娘は久々にCT検査を受けました。結果を聞きに行くのは、怖いわとメールしてきた。家族みんなも同じ思いなので、少しでもいい兆しが出ることを祈っていました。


翌日、膵がんの部分は、ほんのちょっぴり小さくなったと見られるけれど、腹膜播種の方は進んでいる、腹水が非常に多く溜まっているという診断でした。いいニュースと悪いニュースが一体となって飛びこんできたような。


ちょっぴりでも小さくなった、ということはつらい抗がん剤投与が、わずかでも効果を上げている証ではないのか。末期がんにとっては、進行が停止していることがいちばんの要です。


長く生きながらえるには、増大、拡散しないこと、新たな転移がないこと。縮小しないまでも、現状維持を続けられることが延命につながります。


副作用によるものか、症状の進行によるものか、体の衰えがきついので、今回も抗がん剤投与は見送りとなりました。3週連続です。残念無念としか言いようがない。


副作用といえば、ぶつぶつと口内炎が起きて、それで食事がしずらくなっているうえ、味覚障害も併発していて、何を食べても味がしない、飲み込みにくい。味がしないから食が進まない状態に陥っています。


なんとか食べられるのは、梅干し入りのおかゆ、とろろ昆布入りのおかゆとのこと。これでは体力が回復しない。副作用に耐えられるだけの体力がないと、抗がん剤治療はむずかしい。


医師は、栄養をとり、まずは体力をつけてと言う。患者にすれば、言われるまでもない
こと、それができないから苦闘しているのだが、、、、。


医師はこんなものがありますと、栄養食品、補助食品などのサンプルをいっぱいくれた
と言います。こうした医師の対応を冷静に考えますと、治療はいっそう難しい局面に来ているのではないか。疑心がつのります。


家内も当方もよく夜中に目が覚めて、娘が少女だったころ、学生だったころ、いろいろな記憶がよみがえったり、先行きのことを案じたりして、眠れない夜が多くなった。つい真夜中のウイスキーとなってしまいます。家族が元気でないと、患者を支えきれない。


元気がない娘に一人息子への「クリスマスプレゼントは何がほしいのか、相談して」とメールを送ると、すぐさま返事が来た。「期末テスト中なので、終わったら、聴いてみる」と。


きょうは、家内は孫息子が好きなおもちを自動餅つき機でいっぱい作りました。まだ子どもなのに、なぜか刺身好きなので、ヒラメやタイの刺身を買ってきました。ほかの食材やサプリなども詰めて、姉に運んでもらいました。


とにかく、娘に気分転換させなくてはならない。息子の喜ぶ顔が娘の生きがいです。



生きる力

休薬一週間のあと、抗がん剤投与に出向いた娘に、看護師がきょうは止めた方がいいではないかとアドバイスしてくれ、医師もそう判断した。その代わりというのか、栄養補給の点滴をうけて帰宅したそうだ。


こんなことは初めてで、娘は、ずっと下痢症状が止まらず、がんばって食べても、ぜんぜん身につかない。体の衰えが著しく、歩きにも力が入らず、立ち上がる際にも、しゃんと立ち上がれないほどになり、ひどく疲れているふうに看護師に映ったのだろう。


食事はおかゆとおじや(雑炊)しか食べられないという娘のメールで、家内と長女が車で様子を見に行った。食べやすい食材やスープの材料などをいっぱい積み込んで。


娘は炬燵で寝ていたそうだ。マンションに住む婿殿と一人息子の3人家族。別居する体のやや不自由な義母がいますが、ほとんど来訪しないらしい。


昼間はいつも一人でいます。体が弱ってきてから、掃除や家事の後始末、洗い物などが行き届かないので、家内や長女は行くたびに”出張家政婦”と称して、部屋中を片付け、大掃除してきます。


炬燵に入って、持っていったケーキなんか口にして、あれやこれや話していると、だいぶ元気を取り戻してきたそうだが、帰宅した家内は、かわいそうで正視できない感じだと嘆く。


TS-1の特徴的な副作用のせいか、顔色は色素の沈着で真っ黒になり、首筋はげっそり痩せてきた。みんなでランチをした一か月前とくらべると、様子がそうとう悪くなっている。


こんな短い期間に、これほど容体に変化がするものか。話を聞いている当方も、進行するがんの恐ろしさに言葉もない。なにも手をかしてやれないわが身の非力がつらい。


娘が、いま必死で頑張る気持ちを支えているのは、一人息子の存在。息子の成長が、いちばんの生きる糧になって、息子はいなければ、もっと早く精神的にダメージが大きかっただろう。


家内は「できることなら、娘をこちらで引き取って世話してやりたい」と言う。娘に気持ちを計りかねて、軽い口調で娘にそんなことを言って見たら、娘は息子と離れ離れになる暮らしは考えられないと。


母子を引き取るとしたら、息子の通学がむずかしくなる、部活や友人との付き合い、塾通いができなくなると、あくまで息子の生活を乱したくないと話しているそうだ。


もっともな母親の意見です。しかし、もっと容体が悪化して、足腰に力が入らず、寝たきり状態になってきたら、どうするのか。婿殿は、そうそう会社を休めない。この一年間でもずいぶん休んで、うらまれているところもあるらしい。義母は一人でマンションまで通えない。


家内も長女も当方も、そういう状況を想像して案じているのだが、そうなったら、どうするか。いま病魔と苦闘する娘と話し合うタイミングがつかめない。


がん患者に「よくなる希望」を話すことはやさしいが、ポイント オブ ノーリターン(引き帰し不能点)を越えたと考えられる患者に「悪くなる予想」を話すのは、限りなくむずかしい。


11月30日付け朝日新聞電子版によると、がんの部位に関係なく使える免役チェックポイント阻害剤「キイトルーダ」(MSD社)が、年内にも厚労省が認可するとありました。


例のオプジーポと同じような阻害剤だが、血液がんを除く、すべての臓器の癌で標準治療が困難な場合に使えるというのが注目されます。こういう薬剤の効用に浴する機会があるのだろうか。


いつも夢想します。かつての感染症に対するペニシリンのような、結核に対するストレプトマイシンにような歴史に名を残すような画期的な抗がん剤の登場が一日も早くあることを、、、。



休薬のジレンマ

2種併用の抗がん剤投与が、白血球の数値がよくないので見送りと、もう一つの方が所定の休薬日と重なると、娘は薬から解放されます。おかしな表現ですが、ある種のしんどい呪縛から解き放されるのです。


具体的にいえば、体がラクになるのです。薬剤を投与されると、体がだるく、つらく、気分がふさぎこむなど、様々な不具合が出ますが、薬剤を休むと、それらの症候群が起こらないのです。


抗がん剤の特異な点で、頭痛薬や胃腸薬では起こりえない特徴です。なんども書いてきましたが、抗がん剤は「細胞毒」でもあるそうですから、健康体もろとも攻撃しています。


それでも薬剤の有効性から有害性を引き算しても、なお、すこしでも有効性が勝ると、理論上考えられているので、薬剤になりうるわけでしょう。


ですから、抗がん剤治療なんか効果がない、してもしなくても延命には関係ない、あるいは、わずか2,3週間の延命にすぎないこともあると公然と無効説を唱える医療関係者がいます。彼らは、こう言っています。


そうした延命のために、厳しくつらい副作用の苦しみに耐え、日常の生活の質(QOL)を悪くするのは、ほんとうに望ましいことか。


がんとの闘病記を読んでいますと、まったく治療をしないと覚悟を決めて、医師が予測した以上に生きながらえている方もいます。だれもが決断できる話ではありませんが、がんという病態は、なんとも不可思議なものです。


娘の抗がん剤は、最初がフォルフィリノックス、ついでジェムザールとアブラキサン。
そして今は、ジェムザールとTS-1です。


これらの薬剤は、膵臓がんの抗がん剤の標準治療リストにある代表的な推奨薬剤となっている通りのものです。すでに三次治療に入っているわけですが、これに予期する効果が現れないと、どうなるのか。