退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

寝たきり老人ゼロ?

 ほんまかいな?。
   高齢者には、いい参考になるかな。
 そう思ってしまう本を図書館の棚で見つけて、一気読みしました。


『欧米には寝たきり老人はいない、増補版』(宮本顕二、宮本礼子共著 中央公論新社刊)です。夫婦ともに医師で、欧米数カ国の老人医療の現場を視察した結果と、ふだんの臨床経験から、たどりついた知見を紹介しています。


 それによれば、20年余まえからスウェーデンを先頭ににフランス、オランダ,アメリカなど先進諸国では「寝たきりの老人患者」というのは、ほぼいなくなった、といいます。


 なぜなら、「自分で食べられなくなったら、死期が近づいている証」とみて、医療者は、苦しみや痛みを和らげたり、取り除いたりすることに全力を挙げますが、胃瘻(いろう)とか、中心静脈栄養とかのチューブにつながれた延命措置は一切しないそうです。


google画像検索から引用しました)


 各国も、そんな延命装置をしていた時期がありましたが、「そうまでして生きることが幸せですか」、「生きる意味がありますか」という反省が、医療関係者と患者、家族との間で合意されて、本人も、その方が自然だという死生観を受け入れていると言います。


 また、そういう延命装置をして「生きている屍(しかばね)」になるくらいなら、安楽死や尊厳死を選ぶ方法もあります。患者の意思を尊重することが法律で認められている国が次第に増えつつあるとのことです。


  胃ろうは、胃に穴をあけて経管で栄養を送り込む
  中心静脈栄養は、大腿や胸などの静脈に多量の栄養を送りこむ
  安楽死は、本人が同意し、医師ら第三者が薬剤等で死を介助する
  尊厳死は、本人の意思で延命措置をせずに死に至る。
  日本では安楽死、尊厳死ともに法律の規定がまだない。


 先進諸国のお年寄りの「死に方」には、医学的にも人倫的にも配慮が進んでいます。それにくらべて、日本では、まず、なんといっても、肝心の本人の意思が、いつもあいまいなうえ、家族は「どんなことをしても生かしてほしい」などの要望が強いことから、意識がなく、モノも言えず、体も動かず、自力で食べることもできない多くの老人が、延命装置で生きています。


 意識がないのに、栄養をチューブで送り込み、排泄を繰り返して何年も生きているお年寄り。イラだったり、苦しいので、チューブを引き抜いたりするお年寄りも少なくなく、やむを得ず両手を縛ったり、いきなり起き上がらないように腹部も拘束されている老人もいるそうです。こうして生きている患者の家族の中には、年金目当てで延命を希望しているケースもあるそうだ。


 日本の医療制度と政策によれば、老人が救急車で運ばれるなどの急性期病院では、長期入院させると、診療報酬が下がり利益が薄くなるので、退院を迫ります。一方、老人を受け入れる介護施設(病院)は、スプーンで三度の食事を食べさせたり、トイレに付き添ったりするなど手間のかかる患者は、介護人が多く必要で(儲からない)という理由で、手間のかからない胃ろうなどの手術をした寝たきり患者を歓迎?!しているという。


 医療関係者が強欲というわけでない。医療制度が不合理なのです。胃ろうなど経管栄養で生かされている患者に接している医師や看護師の多くは、この悲惨な生き方に「自分だったらごめん被る」という感想を持っているそうだ。


 だが、なにがなんでも「生きていてほしい」という家族の要望がある限り、医療関係者が無視できない。場合によっては、訴えられるおそれもあるので、やむなく延命装置を続けているケースもあるという。


 日本の寝たきり老人というのは、病床でもと居宅でも、半年以上、寝た切りという状態を指すことは通説だが、どのくらいいるか、推計では約30万人とも120万人と幅が広く見積もられています。厚労省の調べでは、認知症患者は、2020年に600万人(2025年には700万人と推計)いますから、実際は、もっと多いかもしれません。


 寝た切り老人が、こうした濃厚治療で生きながらえるための医療費は膨大な額と介護の人手が必要です。前回、この欄で取り上げた映画「プラン75」の提起する問題は、こうした実情とも絡めて考えさせられます。


 ぼくの年長の知人にも胃ろう手術をして寝たきりになっている人がいます。お見舞いに行くと、コロナ禍でもあるせいか、病院の受付から階上のベッドに寝る知人とテレビ電話でしか対面できません。


 知人は立派な見識がある人物だと思っています。けれど、もうぜんぜん出勤することもできない仕事上の肩書を残しています。はた目には老害かもしれません。それほど、生への執着が強いのかと思うと、家族の方に「胃ろうから解放させてあげたら」というような進言はとてもできるものでありません。


 こんな延命の実情を知ると、世界に名高い日本の長寿ランキングトップというのは、まやかしではないかと思えます。延命装置で長生きする老人が、平均寿命をカサ上げしているわけでしょう。


 以下は、WHO(世界保健機関)の2021年報告書に記された「平均寿命」の結果を「国別にランキング化」したものです。男女平均です。


1位 日本 84.3歳
2位 スイス 83.4歳
3位 大韓民国 83.3歳
4位 シンガポール 83.2歳
5位 スペイン 83.2歳
6位 キプロス 83.1歳
7位 オーストラリア 83歳
7位 イタリア 83歳
9位 イスラエル 82.6歳
9位 ノルウェー 82.6歳
11位 フランス 82.5歳


 トップの日本から11位のフランスまでの差は2才未満にすぎない。寝たきり延命老人が、平均余命にゲタをはかしている可能性は大あり、という感じです。日本人が長寿だというのは、率直に喜べないかもしれません。なにせ、まともな政府統計さえ捏造する国です。長寿国の実態です。


 さて、延命装置について、「お前なら、どうするか」と問われたら、ぼくは、「食事、排せつ、衣類着脱」のうち、自力で食べられなくなったら、苦痛だけは薬剤で癒してほしいが、一切の延命処置は不要、ついでに葬儀も不要だと、連れ合いに言ってあります。


 連れ合いに同じ質問をしますと、「孫の成長を見守りたい」と延命については、はぐらかします。たぶん、あまり正面から向き合いたくないのでしょう。その気持ちが分かりますが、それでは人工的長生きシステムは、”延命”するでしょう。この国では!

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