退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

日系アメリカ人

  シュクロウ・マナベさんがノーベル物理学賞を受賞しました。マスコミも出身地も出身校も大喜び、大歓迎です。


 キシダメ首相も「日本人として誇りに思う」と如才ないことを言っていますが、マナベさんはアメリカ人です。褒めるなら「先見性のある業績」の方でしょう。バイデン大統領は自国民であるDr.Manabeさんを称賛しています。


 スエーデン王立科学アカデミーの発表によれば、Syukuro Manabe(USA)でした。つまり、国際社会での認知はアメリカ人です。マナベさんは、二十代後半からアメリカに住み、アメリカ国籍を取得、日本では地球温暖化予測研究領域のトップに就任したことがありますが、”縦割り行政”や官僚の無理解にいや気してか、辞任して帰米しています。


 受賞後の記者会見では「なぜ、国籍を変更したのか」と問われて「おもしろい質問ですね」とマナベさんは次のように答えています。


 「日本は調和が大切。他人に気を遣わなければならない。ぼくは調和に向かない」、「”はい”と”いいえ”がはっきりしない。どちらの返事でも本当かどうかわからない」「アメリカでは他人に気をつかわなくていい。研究費用は十分だったし、自由にコンピュータを使わせてくれた」という趣旨を話しています。別の会見では、「アメリカはいい。日本に帰りたくない」と語っています。


 マナベさんの発言の裏をかえせば、日本人として日本での研究生活をやっていたら、面倒な人間関係、不合理な行政組織、少ない研究費、貧しい研究施設のために十分な研究ができなかっただろう。今日の栄光はありえなかっただろうと言っているわけです。


 これは非常に厳しい日本社会への批判であります。「世界に冠たる天皇中心の大和民族」だと自負するアへやタカイチら極右の連中にフツーの感覚があれば、マナベさんの発言に恥入らなければならない。


 また、研究内容が気にくわないと、日本学術会議の学者六人の任命を拒否したスカタンも、己の狭量を反省しなければならない。まあ、反省しないだろうな。この国から、マナベさんのような”頭脳流出”が出るのは避けられない。


 日本の憲法では、国籍離脱の自由を保障しています。それを受けて国籍法では、海外に国籍を移した時点で、自動的に日本国籍を失うとしています。実務的には、そうですが、国籍を移した人に対して「母国を捨てたヤツ、もう日本人じゃない、帰ってくるな」などと嫌悪感を持ち、排斥する人が少なからずいます。悪しき自国民優越主義です。人には、それぞれの自由な事情があります。


 マスコミは真鍋さんが28人目の日本人ノーベル賞受賞者だと伝えていますが、実は、そのうち4人は外国籍です。あの青色発光ダイオード発明の中村修二さんも米国籍、文学賞のカズオ・イシグロさんは英国籍です。


 スイス国の法律のために仕事の都合でやむなくスイス国籍に移した日本人実業家が、本人の同意なく、自動的に日本国籍をはく奪された事案があり、この人は、違法だと国を相手取って訴訟が進行中です。


 日本は多重国籍を認めず、容赦なく移住した者の国籍を奪う一方、他国で活躍する人物が現れると、”日本人”だと騒ぐのは時代錯誤の、おかしな話です。国籍は民族ではなく、法律上の縛りです。ですから、Manabeさんは、日本に起源をもつアメリカ人です。漢字の名前さえ、とっくになくなっている人です。


 今回のノーベル賞発表では、北海道大学特任教授のペンジャミン・リストさんが化学賞を受賞しています。ドイツ人で、国際協力で新薬開発ために素材研究などをしていますが、マスコミはあまり騒ぎませんでした。日本の大学で貢献されているにも関わらず、です。


 200を超える国・地域が参加する五輪で見たように国際社会は多彩です。「日本人」かどうかだけが注目ポイントというのは、テレビ番組が誘導する外国人が驚くニッポンの素顔とか、日本人、エライぞ!などといった日本礼賛番組と同様です。どこの国でも誇るべき文化や伝統を持っています。ことさらに自慢するのは、了見の狭い話です。


 マナベさんの場合のように、日本国と日本人が、ほとんど研究業績に寄与していないにも
関わらず、元は日本人だとわかると、と賞賛の拍手を贈るのは、どういう同胞意識なのか。
アメリカ人やドイツ人なら、拍手しないのか。不思議なはなしです。


 マナベさんにとって研究環境がいいところを選んで移住したのにすぎない。ぼくたちが少しでも住みよい環境の住まいをもとめているようにです。「おもしろい質問ですね」と言ったのは、マナベさんにとって、意外だったからでしょう。

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