退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

凡人は長生きする

 毎朝、目覚めても、すぐには起きだせない。何か、することがあったかな。
 用がない日が、ずっと続く。壁に貼ってある大きなカレンダーを目を細めて眺める。用がある日にはマーカーで丸を記してある。きょうもなにもない。


 カレンダーは桜と富士山。なんとも、くさい風景写真があるやつだ。人に見られると、恥ずかしい絵柄だが、写真屋で年末にもらったものだ。むかしは暮れになると、あちこちから、商売がらみや趣味の写真のカレンダーをもらったものだが、もうとっくにそんな境遇ではない。


 日差しが明るい。三月上頃らしい、いい天気のようである。そう言えば、昨年の今頃、勤め人のころ,ウマがあった友人が亡くなった。二つ年下だったので、彼は傘寿を迎えなかったわけだ。どんな思いで病床にいたか、聴くこともできない。


 枕を立てて背もたれにし、ベッドの脇からタブレットを取り上げた。思いつくままに浮かぶ著名人の亡くなったトシを調べてみることにした。


石川啄木  26
夏目漱石      49
森鴎外       60     
太宰治        38
種田山頭火      58 


植村直巳         43
田部井淳子     77


源頼朝       52
豊臣秀吉      61
坂本龍馬      31


ジェームス・ディーン   24
モンゴメリ―・クリフト   45
エリザベス・テイラー    79
オードリ・ヘップバーン        63


 みんな若い。驚くほど若くして亡くなり、しかし、驚くほど心に残る仕事をしている。偉人、奇才、天才とはすごいものだ。馬齢を重ねて、何ら爪痕を残すこともなく、昨日今日を悶々と暮らしている者からすれば、言葉を失うほどだ。


 女性で最初のエベレスト登頂者になった田部井さんと、八回も結婚を繰り返した美貌の女優、エリザベス・テイラーの二人は、他の人よりも長生きしている。それでも一般女性の平均余命に比べると若い。


 功成り名を遂げた歴史に残る著名人は、意外にも短命だ。死後、半世紀もたって、なお根強いファンがいる俳優、ジェームス・ディーン。実はいまも変わらぬファンなのだが、彼が愛用のポルシェで事故死をしたときのショックをはっきり覚えている。青春真っ盛りだった高校生の時だけに、生あるものは必ず死ぬ、不意に死ぬという世の無常を痛く感じたものだ。


 早熟の天才、天賦の美点に恵まれて、スポットライトを浴びているさなかに夭折するのは、悲劇的でドラマチックだが、誰しも、こうはいかない。ほとんどの人は、天からの授かりものもなく、世俗の幸運に恵まれることもなく、地道にへばりついてうずうずと暮らし、この社会の壁に何に一つ痕跡を残すことなく消えていく。


じれったくも、せつなくも、消えてゆくその時がわからないまま、流されていいく。凡人は長生きするというよりか、長生きするから凡人か。長生きする天才というのは、天才に気の毒だが、なんだかおかしい。

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