退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

ハメマラケ

 おまじない、呪文ではありません。
 漢字で書けば、「歯・目・魔羅・毛」です。


 俗に男の身体機能が衰える順番だ言います。ぼくの経験からすれば、この順番どおりではなく、順序が逆だったり、三つが並行したりしています。


 「マラ」は、生殖器。「お父さん、すごい」、「いくつになっても」、「みなぎる元気」などと広告にあるアレのことです。新聞やTVがおおぴっらにヤレ,ヤレとススメる広告が連日載ります。もはや戦力外になった「お父さん」なんか、肩身がせまくなるアレの広告です。


 終わりの「毛」とは「頭髪」を指すのですが、個人差が大きすぎるからか、これを省く人もいます。いわゆる「総合的、俯瞰的に判断」して、外した理由を説明しない腹黒い人物よりは、罪がない話です。

 むかし、若ハゲの同僚がいました。30前後なのに、一本の頭髪もなく、そのうえ頭が大きいから、ユル・ブリンナーみたいなツルツル頭が人目を引きました。ある時、デモ隊の列近くで機動隊員から、「そこの肌色のヘルメットの人、下がって、下がって」といわれて、怒りまくってました。


 「お前には嫁さんは来ないなあ」と酒の席でいじっていましたが、なんと大阪万博の美人コンパニオンさんとめでたく結婚、同僚たちを驚かせました。あれから50年、いまでは年齢相応の頭です。コンパニオンさんは大した長期的洞察力の持ち主です。まあ、男女の機微はわからない。世の中のことは、一寸先は闇です。


 一寸先は闇といえば、視力喪失の悲話。実は、ぼくは片目です。右目しか見えない。5年前のある朝、洗顔していたら、フラッと体が揺れました。なんだか気分がおかしいので、鏡でまじまじと自分の顔をみつめました。


 なんにも変わった感じはないのです。片手で左目を抑えても見えます。ところが右目を抑えてみると、視界は真っ暗です。鏡も顔もすべても見えないのです。左目に視力がないのです。これには驚き、震えました。


 総合病院に駆けつけたら、あいにく眼科は休診中。開業医の眼科を探して、やっとのことで診察してもらったら、老眼科医の診断は「網膜中心動脈閉塞症」という聞きなれない病名。


 納得できないので、大阪市内の総合病院の評判がいい眼科の紹介状をもらって、半日がかりで各種の検査を受けましたが、診断ははやり同じでした。現在の医学水準では、治療法がないとといいます。心筋梗塞や脳梗塞と同じような血管内の閉塞が目の裏の極細の血管で起きただそうです。


 にわか片目になると、左右のバランスや、遠近の差が掴みにくくなります。なにかモノを取ろうと手を出しても、数センチから十センチくらい手前で空をつかみます。駐車すると、車体は必ず斜めになっています。左利きで左目失明ですから、わが身と思えぬ混乱状態となりました。


 眼科医は目には太陽光線は百害あって一利なしだからと、サングラスを勧めてくれましたので、いまはタモリふうです。タモリさんは子供のころ異物が入り失明したといいます。樹木希林さんやBS-TVで再放送中の『刑事コロンボ』を演じているピーター・フォークさんも片目ですね。


 突然の失明は恐ろしい。あれいらい、毎朝、起きるとき、光を感じるかどうか、ドキドキします。「もっと光を」どころではありません。片目でこうですから、全盲の人のご苦労は想像を超えます。両眼失明を想像すると、「ハ、マラ、ケ」なんて論外ですね。


 片目でも 生活に大変な支障がでるのに、法令上、視覚障碍者に認定されないのです。なってみて初めて知りました。ご年配の皆さん、高血圧やら動脈硬化やらは、怖いですよ。

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