退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

"パーソナル・ソング”

 行く末に一筋の光をもらえそうなキュメンタリー映画を見ました。


 アマゾンプライムがリリースしているアメリカのドキュメンタリー映画『パーソナル・ソング』です。ぼくの行く末にある大きなハードルは、アルツハイマー型痴呆症とか認知症になることでしょうが、これを飛び越えていける確信はどこにもありません。


 映画はユニークな題材です。長年、アメリカの老人施設で患者をみてきた男性のケースワーカーが、あるとき、ひらめいて認知症の患者にヘッドホンを耳にあて、患者が好きだったかもしれない、あるいは、患者の育ったころの流行した定番の歌を聴かせます。すると、歌の記憶とともに奇跡的な心身の覚醒がおこります。


 94才、暴言を吐いて乱暴を働く認知症の男性が、曲を聴くと、しだいに目が輝きだし、笑顔が戻り、かつての仕事や娘の名前まで思い出します。一日中、車いすに座り、一言も話さずふさぎ込んでいるおばあちゃんが、歌に合わせて手を振り、足を動かし、やがて立ち上がり、ケースワーカーとダンスに興じ始めます。


 このドキュメンタリーでは、多くの認知症患者のドラマチックな変化を紹介しています。ケースワーカーは、この”音楽療法”を普及させるのが目的で、ヘッドホンやメモリーの寄付を募っています。全米では多くの施設で、音楽療法を取り入れているそうです。


 映画を見ていて、かつて見たロバート・デ・ニーロ主演の『レナードの朝』を思い出しました。一時流行した悪性の脳炎のため昏睡状態になっている患者たちに、当時の医療方法から論外とされていたパーキンソン病向けの薬を投与したとき、全員が意識を取り戻します。以前のように日常の暮らしに戻ります。なかには恋をする男性まで現れます。実話に基づくアカデミー賞候補作品でした。


 不老長寿の薬はありません。不測の病気や老衰による症状から逃れたいと考えるのは、洋の東西を問わずですが、人知が、まだまだ及ばぬことはいっぱいあります。『パーソナル・ソング』にょうに、簡便な方法で、意識がよみがえるとすれば、画期的なこと!、非常に喜ばしい手法です。


 ぼくはパソコンを打つとき、昼飯を食べるとき、たいていBGMを好んでかけています。こどものころから、いわゆるムード音楽(いまではヒーリングとかチリとかと言っている分野を含めて)が好きです。


 高校生のとき、最初に買ったレコードが映画『南太平洋』のテーマ曲であるマントバー二・オーケストラの『魅惑の宵』と、エルビス・プレスリーの『ハートブレイク・ホテル』でした。『魅惑の宵』の流れるような弦に魅せられました。


 BGMにはリカルド・サントスやパーシー・フェイス、ヘンリー・マンシー二、レイモン‣ルフェーベル、ポール・モーリアなどの各オーケストラ、あるいはリチャード・クレイダーマン(どれも古いネ)なんかが演奏する映画音楽、各国の民謡、誰でも知ってるクラッシックの名曲を流しています。街角の静かなカフェのつもりです。


 書くときは集中していますが、打つ手を止めたり、疲れて思案するときなど、聞きなれた曲が流れているには、非常に心地いいものです。だいたい、ストレスを気にするタチのぼくには、BGMはほんとうに安らぎを与えてくれています。


 ですから、『パーソナル・ソング』は、わが意を得たりと感動しました。ぼくのやり方は、音楽療法に当たらずとも遠からずの流儀だったのではないかと得心しています。


 惜しいことに、この映画では、なぜ覚醒が起こるのか、いつまで続くのか、という点での説明はありませんでしたが、そのことは、いずれ解明されるでしょう。


 ネットで調べてみると、日本でも音楽療法の意義は評価されていました。老人ホームで懐メロや唱歌をみんなで歌ったりすると、元気が出る人たちが多いらしい。音楽療法を正規に治療法に採用している病院もたくさんありました。


 ぼくも、この先、認知症になったときに、連れ合いから聞かせてほしい「マイ・ベスト・アルバム」をipodにまとめておこうと思いましたね。一時的でもいいから、意識がよみがえるというのは、素晴らしい。爺ちゃんが復活した!、そんな声がきこえるかもね。

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