退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

追悼 J P ベルモンド

 フランスのスター俳優、ジャン=ポール・ベルモンドが7日、亡くなりました。享年88


                                           (写真は映画の1シ―ン。Google画像検索から引用しました)


 フランスは10日、政府主催で追悼式を営み、マクロン大統領が偉大な俳優の業績をたたえる弔辞を述べました。フランス国旗に包まれて儀仗兵に運ばれるベルモンドの柩。映画や大衆芸能文化に対する国民的な理解があってこそのセレモニーですね。何しろ、故シラク大統領いらいの"国葬”というから、顕彰の仕方が素晴らしい。


                       (AFP BBnewsからシーンをカット、引用しました)


 一昨年、是枝祐和監督の『万引き家族』がカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いたとき、フランス政府が直ちに祝辞を送ってくれたのに、当時の首相アへは知らんぷり。


 官房長官スカタンは記者団から質問されて、しぶしぶ「お祝いもうしあげる」。国内の貧困問題がテーマだったのが気にくわなかったらしい。まあ、二人とも文化がわかる輩ではない。二人に文化や芸術的教養を求めるのは、「畑でハマグリを探す」ような見当ちがいですね。


 さて、ベルモンドはもっと年上かと思っていた。ぼくが主演映画『勝手にしゃがれ』(ジャン=リュック・ゴダール監督)を観て、感動していたころは、彼は二十代後半だったのだ。懐かしい名前です。


 人気を二分したアラン・ドロンのような二枚目ではないが、アメリカ映画のスティーブ・マックィーンみたいな、癖のあるルックスの演技派兼アクション俳優でした。


 『勝手にしゃがれ』は、フランス映画界が世界に衝撃を与えた映画ムーブメント「ヌーベル・バーグ」(新しい波)の代表作です。あらすじは簡単。世間に背を向けたやさぐれ青年が自動車泥棒を見つかり、あっさり警官を射殺、パリへ逃げて、アメリカ人のバイト娘と逃げ回った挙句、街頭で警官に背中を撃たれて前のめりに路上に倒れ「最低!」とつぶやいて、、(FIN)


 映画が突然終わるところなんか、目新しい手法でした。たいてい当時の映画は、余韻・余情たっぷりにラストシーンをクローズアップしたり、引いたりしてから、、(完)でしたから。


 映画の作り方も、がっちりした脚本はなく、ニュース映画を撮るように手持ちカメラが動き回ってアドリブ撮影され、ロケと知らぬ街ゆく人たちの驚く表情も巻き込んだり、その喧噪を同時録音で取り入れたり。いまでいうドキュメンタリーのような撮影手法でリアルで新鮮でした。


 当時、ショートカットのバイト娘、ジーン・セバーグ(実にキュートでした)との濡れ場でも、ベルモンドとセバーグが真っ白なーツの下でモゾモゾ、ときどき息を吸いに上がってくるイルカみたいに顔を出して、また潜ってモゾモゾ。クールで乾いた演出でした。


 映画の手法が新しいだけでなく、それまでの映画にはイタリアン・リアリズムのような現実直視の映画の流れがありましたものの、ロマンスは曲折あっても、ハッピーエンドとか、目的遂行は山あり谷ありでも、結局成功とか、悪が滅んで善が栄えるといったハリウッド映画が主流ででした。


 ヌーベル・バーグは、そうした劇場映画の定型から距離をおいて、あがいてもあがいても、うまくゆかないときはうまくいかないもんだ、という社会が持つ陰影や不条理、人間の絶望や諦観に目を向けて、説得力がありました。


 そうした傾向は、前後して上映された同じヌーベル・バーグ派のクロード‣シャブロル監督の『いとこ同志』に色濃く、なんとも冷ややかな現実の一端を見せてくれました。


 田舎の純情青年が、パリの金持ちいとこがいるマンションに居候にきます。いとこ同志の二人は同じ法学の学士試験をうける予定です。純情青年は、懸命に机にかじりついてのガリ勉、やっと見つけた娘に恋心をよせるくらいが息抜き。


 一方の金持ちいとこは、夜な夜な酒とダンスと女たらしに明け暮れて、純情ないとこを小バカにしたうえ、彼が恋心寄せた娘まで巧みに奪ってしまいます。学士試験の結果、純情青年は不合格、金持ちいとこは合格、、、。金持ちいとこを演じたジャン=クロード・ブリアリの不敵な笑顔が焼き付いています。


 ヌーベル・バーグ運動は、ベトナム戦争への厭戦気分あふれるアメリカに引き継がれアメリカン・ニューシネマと呼ばれ、『俺たちに明日がない』、『イージーライダー』、『卒業』『明日に向かって撃て』など名作が次々と生まれて、楽しませてくれましたね。jpベルモンドは、そうした新し映画界の流れを最初に成功させた俳優でした。


 学生時代の講義や読書は、ろくに覚えていませんが、映画のことは、すぐによみがえりますね。映画全盛期、その時代の空気に存分にひたって、人生いろいろ、男もいろいろ、女もいろいろ、世の中みんなー、いろいろ、楽しんで学びましたね。

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