退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

医師受難と「患者様」

 このところ、信頼かつ敬愛されている立派な医師が相次いで「患者様」か、「患者様」の家族から殺害されています。お気の毒にたえない。加害者の「患者様」とその家族に怒りを覚えます。


 犠牲になられた一人は、大阪の心療内科の医師。ビルに放火されて他の患者20数人とともに亡くなられました。もう一人は埼玉ふじみ野市で地域の在宅往診に献身されていた医師で、「患者様」の家族に散弾銃で射殺されました。


 ぼくは、かねて持病持ちで、80代まで生きているのは、医療関係者のおかげだと思っています。とんでもない蛮行に走るバカが、どうして現れるのか。


 「患者様」と書いています。医療の現場で患者の呼び方を「患者様」などと呼ぶようになったのは、いつごろからか。ぼくは最初、ナースから、そう呼ばれたとき,違和感を覚えて「猫なで声のような」気色悪さを覚えたものです。


 ネット上で、こうした理不尽な事件が起きることに関して、医療関係者が患者を「患者様」などと持ち上げるから、分別ない患者が勘違い、医師よりエライと増長しているのではないか、という意見を見つけました。これは一理あると思います。バカを理由なくヨイショすると、図に乗るヤツが出てきます。


 いったい、なんで患者を「患者様」と「様づけ」の尊敬語に格上げしたのか。調べて見ますと、


 2001年11月 「厚生労働省医療サービス向上委員会」による「国立病院等における医療サービスの質的向上に関する指針」の中に「患者の呼称は、原則として姓(名)に様を付する」という内容があり、これが一般に広がったとされます。その2年後に厚労省も「望ましい」と通達を流しています。


 この委員会は、関係者の患者への接遇改善、あるいは患者中心の医療という観点から、たぶん親切丁寧な医療現場を醸成したいと、このような方針を出したのでしょうが、このサービス精神はいかがなものか、と思います。


 こんな扱いをしていると、大正時代のやんごなき人の病名にまで「脳膜炎様の御大患」なる珍妙な尊敬語をつけたエピソードが浮びます。どうですか、みなさん、「オミクロン株様」に罹っていませんか。www


 ぼくたちが、旅館の部屋やレストランの席に案内されるとき、「お客様」と呼ばれて違和感がないのは、サービス業の人の丁寧語だとわかっているからです。医療関係者と患者の関係でも、節度ある言葉使いは当然ですが、医療行為は、そうしたレベルのサービス業かどうか。


 総務省の「日本産業分類」によると、「医療。福祉」はサービス業と分類されています。一方、厚労省の「日本職業分類」によると、医師は「専門的技術職」となっており、サービス業には「ウエイトレス, 理・美容師、調理人」らが挙げられています。


 国の分類に揺れが見られるように難しい問題ですが、医師やナースと患者の関係は、主従でも上下でも労使関係ではありません。患者がむやみに医療職にかしずく必要もないし、医療職の人たちが患者にへりくだる必要もないと思います。


 近年、医療側が患者の様づけするのは、不自然だとして、通常の「患者さん」等の呼び方に戻す機運があるようです。ネット上に、ある病院の例をみました。


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「患者様」という呼称は「患者さん」「患者の◯◯さん」に改める
「患者の皆様」「患者の◯◯様」という呼称は用いないが、文章としての使用は特に制限しない。
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 ぼくは、「ウサギさん」や「受付番号」や「〇〇番号のウサギさん」と呼んでもらえれば、それで十分です。過剰な謙譲語は、卑屈な感じさえ与えます。バカな患者の権利意識を助長しているかもしれない。


 ただし、この「患者様」問題と、予約時間を2時間過ぎても、呼ばれない、会計と薬剤受け取りに、さらに90分なんて患者無視の現実や、たまに横柄な医師がいることとは、別の問題ですが、ね。

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