退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

前立腺肥大症のこと

 ノコギリヤシ。あまり見慣れない樹木です。


 だが、中高年の男には、けっこう名前に馴染みがあるかもしれない。後期高齢者なら、ほぼみんな知っているにちがいない。夜間になんどもトイレに通う症状なんかには、その成分が効くとされています。


 ぼくも長く飲んでみましたが、少なくとも、ぼくにはまったく効果はありませんでした。アメリカ先住民たちの、いわば民間伝承薬と伝えられていますけれど、「インディアン(*1)はウソつかない」とはなりませんでした。


 男特有のこの病は、前立腺肥大症状と呼ばれています。いちばんの症状は、排尿障害。尿意がしょっちゅう起きて、頻繁にトイレ通いしたり、しても残尿感があったり。逆に尿意はあるものの、便器のまえで立ち往生、なかなか出ない人もいます。


 先にトイレに入った隣の人が、こちらが終わり立ち去るとき、まだ出ないで呻吟している姿を見ることもあります。お気の毒だが、なんとも悲哀を伴う滑稽な姿でもあります。


 映画『ラスト・ベガス』では、悪友同士という設定でモーガン・フリーマンがロバート・デ・ニ―ロに電話するたびに「前立腺、調子どう??」とからかうシーンがありました。東西問わず、年配者の共通の悩みのようです。


 ぼくの場合、初めのころは夜間に尿意で四、五回起こされました。一、二時間ごとですから、とうてい寝た気になりません。昼間も時間、場所をかまわずトイレに行きたくなり、外出すると、常にトイレを探す自分がいます。これでは旅行も映画館にも行かれなくなり、外出が気後れします。いったん尿意が起これば、切迫感が強くて、我慢できないときもあります。恥ずかしく、屈辱の体験です。


 いいトシになって,生業の苦労から解放され、自由な動きができるにもかかわらず、内なる反逆のためにQOL(生活の質)は著しく低下しました。これでは長寿どころか、長命の手かせ足かせです。


 ノコギリヤシに愛想つかして、しかるべき大病院でオシッコの検査などやってもらい、正真正銘の前立腺肥大症だが、がんを心配することはないレベルと診断され、いまは以下の三種の排尿障害改善薬を朝食後に服んでいます。


ベタニス
フリバス
ザルティア


 もう四年近く、服用している効果のせいか、夜間のトイレ通いは、だいたい三回に収まっています。といっても、ニ、三時間ごとですから、苦痛です。年中の夜半、うすうす尿意を感じて、やおらしぶしぶ起き出して、トイレ往復です。真冬の寒い時期など、ほんとわが身が恨めしくなります。


 前回、「夜ごとの夢」に書きました夢は、実はこの頻回尿の前後に見ていることが多いのです。尿意と言う体の内部からのシグナルを察知した脳が、すっきり目覚めるまえに、あれこれと記憶の断片を掘り起こしているのではないか。


 トイレから戻っても、すぐには寝付きません。寝入るまえに再び、わが脳はあれこれと思いを巡らしているのかもしれません。導眠剤の代わりと称して、枕元のアルコールを飲むこともあります。夜ごとの夢は前立腺症状による頻回尿の前後に触発されているのではないか。そうだろうなあ、と思っています。


 アルツハイマーや認知症にでも進めば、夢は見なくなるのだろうか。もし、そうなら、夢を見るうちは、まだ健常??なのかな。



*1 このフレーズは、昔、TVで人気の連続西部劇「ローン・レンジャー」(のち劇場映画化)のなかでインディアン、トントがしょっちゅう口にした言葉。白人はウソつくが、、、、という意味合いで使われた。インディアンは、いまでは差別語とされ「ネイティブ・アメリカン」とか、「先住民」と呼称されています。時代を表す「フレーズ」なので、敢えて使いました。

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