退屈な80代

還暦、古希、傘寿を過ぎて 日々思うことを綴ります。

がん戦争

 連れ合いが胃がんになりました。
 ぼくと同じ後期高齢者なので、トシに不足はありませんが、日頃から達者自慢。ここ十年、入退院を繰り返すぼくとちがって、風邪一つ引かない人が、、です。


 昨年暮れごろから食が細くなり、痩せてきた。時々、ふらつくようなので、医者にかかると、貧血と診断。大きな病院で貧血の原因を探るため内視鏡で検査したら、大中小のポリープ三か所がみつかり,入院し剥離しました。


 「この二か所のは、まあ、無実やな。疑わしいのは、これ!。この大きいやつ。こいつが見かけより深く浸潤しているかどうかやなあ、しばらく泳がせてみよう」。写真を見ながら、医師は警察ドラマの刑事になりきったような話しぶり。


 「ははーん、泳がせていい段階か」。こちらからの質問に答えて「そうやな、ステージ1とするか」。というわけで、三分がゆ、五分がゆ、全かゆと病院食を重ねて、無事退院しています。


 がんは二人に一人がかかり、三人に一人が亡くなる時代。毎年の罹患者は約130万人、死者は30数万人です。15年戦争(1931年の柳条湖事件から1945年の降伏までの足掛け15年 )にわたるアジア太平洋戦争の合計戦没者は310万人。15年という時間で比較すると、がん死者の方がはるかに上回ります。まさに「がん戦争」下の国民病です。


 ぼくの父と兄も胃がん死、妹は胃全摘。兄の娘も胃がん、ぼくの次女は膵臓がん死しましたので、まぎれもなくがん家系のようです。(がんは遺伝子の異変で、ごく一部を除いて、遺伝病ではない。これが定説ですが)


 下痢したり、便秘をしたりすると、「さあ、来た来た」と胃がんを身構えるのですが、飲ん兵衛のぼくは幸いなことに、いまのところ射程距離から外れています。「誰ががんになって、誰がならないか」。この宿題は、現代のがん研究では解明されていません。


 がん関係の多くの啓発本を読みますと、治療法として三大柱に挙げられる手術、放射線、抗がん剤(化学療法)がありますが、「取る」と「焼く」はともかく、抗がん剤は効果についてはあいまいな印象です。


 はっきりした物言いができる医療関係者は、とくに転移、再発したがんについて抗がん剤は効かない。痛みの緩和とわずかな延命効果しか期待できないといいます。(抗がん剤が効くがん種は、小児がん、急性白血病、リンパ腫、絨毛がん、睾丸腫瘍くらいと指摘する医師もいます)。


 ぼくは最難治とされる膵臓がんの進行がんになった次女の闘病と介護を見守って、手術や放射線(重粒子線や陽子線もふくめて)からも見放されて、抗がん剤投与に移行して副作用に苦しむ次女をみてきましたので、抗がん剤(抗がん剤は劇薬・毒薬指定です)については、まだ信頼できるものではないと思っています。がん細胞をやっつけると同時に正常な細胞も破壊します。後者の細胞毒が副作用で、患者の命を奪う。


 抗がん剤については、どうやら厚労省、医薬品業界と医療関係者の間では、”暗黙の了解”があって、その有用性と安全性には、公然と議論しないらしい。『がんと闘わない』の医師、近藤誠さんは、抗がん剤は効かないと断言しています。


 ぼくが信頼する一級の著述家、ジャーナリストの立花隆さんは、近藤理論をがん研究の大御所にぶつけると、「抗がん剤で実際に治るがんなんて、ありゃせんのですよ」と語り、その言葉に同席した医療関係者もうなずいている場面に居合わせたことがあり、近藤理論は、通説破りの異端でないと認識したと、彼の著書に記述しています。


 近藤医師が異端視されたのは、そういう学会の闇を暴露していることにあるらしい。厚労省、医療関係者と製薬業界は、想像以上にヒト、カネ、モノで癒着しており、患者数×長期治療がマックスであるほど、巨額の開発投資が回収できて、儲かる仕組みです。いまや抗がん剤は製薬業界ではドル箱だという話があるそうです。


 人類はペスト、天然痘、コレラ、結核、、、多くの感染病を駆逐してきました。外部から人体に入ってくる疾患について、優れた実績を重ねてきました。いま流行の新型ウイルスもいずれ克服できる日はくるでしょう。


 しかし、がんのように「内なる生命現象の異変」に関して、なぜ遺伝子細胞に変異が起きるのか、なぜ増殖するのか、そういった因果関係が根本的に解明されていないから、有効な薬剤が開発されない。夢の特効薬と喧伝する薬剤は次々と浮かんでは消えてゆくのが現状です。


 がんをコントロールできるのは、今世紀最大の課題。難しいという声もあります。身内にがん死を看取って来たものとしては、根治がムリなら、手術や放射線治療ができる早期発見へ予防的方策の研究を深化してほしい。


 だれもが血の一滴、唾液や尿の検査で、がんの有無が分析できるような簡便な腫瘍マーカーが開発されないかと切に願います。10兆円くらいかけて国家的プロジェクトを作り、医療界が総力をあげて、、、というのは、命を大切にしないこの国では夢想にしかすぎないか。


 アメリカは、かつてニクソン大統領の掛け声で(がん戦争 WAR  on CANCER)を国家目標にして総力をあげて取り組んだが、道半ばのままです。トランプと争う次期大統領にバイデン氏がなれば、医療に関心が深いので再開を期待できるかもしれない。


 なお、わが連れ合いは、退院10日目に焼き肉をパクついていますから、米寿、卒寿への道を歩めそうです。




近藤誠 『がんと闘うな』(文芸春秋 1996年)


立花隆 NHKスぺシアル取材班『がん 生と死の謎に挑む』(文芸春秋 2010年)


45年間、10兆円を使った米国「ガン戦争」の悔しすぎる顛末とは|イングリッシュ・ニュース・ブリーフ(2016_12_17)
https://courrier.jp/news/archives/70624/?ate_cookie=1595488116

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